巻ちゃんが文章からすり抜けてゆく
或る冬の夜。降り積もる雪は粉砂糖の如く樹々を彩る。吐息は真っ白な結晶となって、空気を明るく照らす。漏らす吐息の一つ一つが輝いては消えゆく様を眺めていると、段々、言霊の存在が可視化されて往くような心地がした。自分から排出されるもの一つが、この世界を構成する一部となるのだ。――緋色が差した青緑色の髪は街燈の下でオーロラのように揺らめき、伏せた瞳に映る白銀の路は彼の肌をますます白く照らした。片手には白い正方形の箱を、注意深く平行を保って提げている。これから裕介は、彼女に逢いに行くのだ。ブーツが石畳を叩き、小気味よい靴音を響かせる。逢うための理由など何でも構わない。相変わらずフランス映画の陰鬱を纏う彼だが、これでも充分に今を楽しんでいる。
裕介はマフラーに顔を埋め、外套の襟を立てて、足早に駅前通りを抜ける。髪の色もさることながら、コートが真紅の派手なデザインであるせいで、信号待ちをしていると随分人目を引いた。嗤い声と冷ややかな視線が都会の雑音に混じって聞こえて来る。しかしそんな嘲笑と囁き声はとうに聞き慣れてしまった。自分に合ったスタイルを知らず、無難な、同じ恰好をしている人間が国内に何十人何百人といそうな恰好をしている方が不思議だ。如何に奇抜であれ、自分が好きな服を着て、自分が好きな靴を履いて、自分が好きな鞄を持って出掛ける方が、身に付けた服達が自分を光の差す方へと導いてくれる感覚を味わうことが出来る。裕介は、民衆の感覚を理解することは可能だが、民衆に溶け込もうという気は無い。それで随分と、窮屈な思いをさせられたからだ。嗤う彼等をニヒルに鼻先であしらって、裕介は道を右に折れ、路地の奥へと真っ直ぐに進んだ。
******
オレはあんまり恋愛には向いてねぇッショっと言いたげに、巻島くんは私の文章からよくすり抜けていきます。
小説を書いている間は、脳内にあるスクリーンにキャラと夢主が映し出され、彼らは勝手に動いてくれます。私はそれを書き留めるだけなのです。しかし巻ちゃんは、スクリーンにしばらく映ったかと思うと、すたすた歩いて映像の外に逃げていきます。
待ってくれ巻ちゃん!これが東堂の気持ちか!なるほど!いや感心している場合じゃないんだ、待ってくれー!!巻ちゃーーん!!
いつか使うかも知れない冒頭文 巻島編2
以前はグラビアを眺めるばかりだった裕介は三日前、一眼レフを購入した。誰を撮ろうかなど、彼には愚問だ。撮るべき被写体はただ一人、 だけなのだから。
勝気に振舞い、夏空のような底抜けに明るい彼女。裕介の前では困り顔で身動ぎし、少女のように恥じらう彼女。過ぎ行く時に泣く彼女。些細な食の恨みを抱えて怒る彼女。寂しげな眼差しで虚無と戯れる彼女。これらが全て一人の女性から生み出されるのだから、女性というのは豊穣の女神だ。多彩な顔を持ち、ファインダー越しに観る者を心酔させる。グラビアの女性達は惜しげもなく己の身を白日の下に晒すが、彼女は溢れんばかりの美しさを持っていながら、決して媚びを売らず肌を頑なに隠している。それでいて尚、裕介の心を震わせる彼女は正しく、女神だった。
******
夢小説というのは、夢主の設定が身近であればあるほど良いのかも知れません。決して凡庸過ぎず、秀で過ぎず、醜女過ぎず美人過ぎず。でも巻ちゃんは、なんだかとても秀でた、モデルのように美しい女性を連れていそうでどきどきします。そして彼は、なんて性描写が似合うんだろう。
巻ちゃんは2番目に好きなキャラクターです。クールで、周囲に流されない。己が持つ「変なところ」を最大限に生かし、己のスタイルを確立する強さが大変かっこいいですね。
いつか使うかも知れない冒頭文 巻島編
小さい頃に母がフレンチトーストを焼いてくれたことをきっかけに、裕介はこれがとても好きになった。焼き上がったそれにはメープルシロップも良いが、蜂蜜を掛けると尚良い。バターは上にちょこんと乗せてやると、恋人達の熱に痺れ溶かされて甘やかな香りを放つ。色恋の営みが垣間見え、口に含めば愛の味がするそれは、裕介の舌と心を少しだけ大人にした。
*****
巻ちゃんの好きな食べ物はわからないんですね。調べてみて、あれっ?てなりました。フレンチトーストを好む巻ちゃんは如何でしょうか。いつか使おうと思います。
8/6 朝焼けのパレード
荒北夢をupしました。
絵を描くのが好きで、ちょっぴりわがままな女の子をイメージして書いています。作中に登場する色名は、透明水彩の色名です。実際に色を見てみたい!と思って下さった方はぜひ、こちらをご確認ください。
荒北少年には、こんな子が似合うと思います。
好きが募るがゆえにわがままになってしまう子。思いを素直に伝え切れずに天邪鬼になってしまう子。そんな子をたった一言、力強く牽引する一言で安心させられちゃうのが、荒北のすごい所なんじゃないかなーと考えながら、彼の恋愛事情を膨らませてみました。青春!してる飛び切り爽やかな朝焼けの世界へ。