hijiriko’s blog

夢小説の進捗状況や、キャラ考察、諸作品の感想などなど http://nanos.jp/greycells/

巻ちゃんが文章からすり抜けてゆく

 

 或る冬の夜。降り積もる雪は粉砂糖の如く樹々を彩る。吐息は真っ白な結晶となって、空気を明るく照らす。漏らす吐息の一つ一つが輝いては消えゆく様を眺めていると、段々、言霊の存在が可視化されて往くような心地がした。自分から排出されるもの一つが、この世界を構成する一部となるのだ。――緋色が差した青緑色の髪は街燈の下でオーロラのように揺らめき、伏せた瞳に映る白銀の路は彼の肌をますます白く照らした。片手には白い正方形の箱を、注意深く平行を保って提げている。これから裕介は、彼女に逢いに行くのだ。ブーツが石畳を叩き、小気味よい靴音を響かせる。逢うための理由など何でも構わない。相変わらずフランス映画の陰鬱を纏う彼だが、これでも充分に今を楽しんでいる。

 

 裕介はマフラーに顔を埋め、外套の襟を立てて、足早に駅前通りを抜ける。髪の色もさることながら、コートが真紅の派手なデザインであるせいで、信号待ちをしていると随分人目を引いた。嗤い声と冷ややかな視線が都会の雑音に混じって聞こえて来る。しかしそんな嘲笑と囁き声はとうに聞き慣れてしまった。自分に合ったスタイルを知らず、無難な、同じ恰好をしている人間が国内に何十人何百人といそうな恰好をしている方が不思議だ。如何に奇抜であれ、自分が好きな服を着て、自分が好きな靴を履いて、自分が好きな鞄を持って出掛ける方が、身に付けた服達が自分を光の差す方へと導いてくれる感覚を味わうことが出来る。裕介は、民衆の感覚を理解することは可能だが、民衆に溶け込もうという気は無い。それで随分と、窮屈な思いをさせられたからだ。嗤う彼等をニヒルに鼻先であしらって、裕介は道を右に折れ、路地の奥へと真っ直ぐに進んだ。

 

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 オレはあんまり恋愛には向いてねぇッショっと言いたげに、巻島くんは私の文章からよくすり抜けていきます。

小説を書いている間は、脳内にあるスクリーンにキャラと夢主が映し出され、彼らは勝手に動いてくれます。私はそれを書き留めるだけなのです。しかし巻ちゃんは、スクリーンにしばらく映ったかと思うと、すたすた歩いて映像の外に逃げていきます。

待ってくれ巻ちゃん!これが東堂の気持ちか!なるほど!いや感心している場合じゃないんだ、待ってくれー!!巻ちゃーーん!!